大動脈外来
はじめに|大動脈瘤について|大動脈瘤 Q&A

心臓から全身に血液を送り出すパイプの役割を果たすのが大動脈です。大動脈は脳、消化管、腎臓などの臓器へ向けて多くの枝を出しながら、お臍の下あたりで左右に分かれます(図1)。大動脈瘤はこの大動脈の壁が一部、あるいは広範囲に膨らみ瘤(こぶ)になる病気です。

図1

図1

部位分類(図2)

発生する部位によって名前が変わります。大動脈瘤の症状や治療は、瘤の部位によって異なります。

図2

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形状分類(図3)

動脈壁構造が、ある程度保たれたまま拡大する真性動脈瘤、動脈壁内が裂けて拡大する解離性動脈瘤、動脈壁構造に穴があいてできる仮性動脈瘤があります。

図3

図3

原因

多くは動脈硬化が原因です。高血圧の場合、血管に常に高い圧がかかり、動脈瘤になりやすくなります。外傷や炎症、感染などにより血管に傷ができ血管が瘤化することもあります。また生まれつき血管壁に異常があり瘤化する場合もあります。喫煙は大動脈瘤拡大の最悪影響因子です。

症状および診断方法

大動脈瘤は無症状のまま、ゆっくり拡大します。健康診断などで行われるレントゲンや超音波検査では見つけにくい大動脈瘤もあり、確実な診断のためにはCT検査が必要です。ときに相当大きくなって周りの臓器が圧迫され症状(胸部;声が枯れる、食事のつかえ感、腹部;胃部不快感、便秘、腹部鈍痛など)があらわれたり、瘤内の血栓が剥がれて血流障害(脳梗塞、腸梗塞、下肢血流障害)などを起こしたりすることもあります。

治療する理由

なぜ、無症状なのに大動脈瘤を治療しなければいけないか?それは、大きくなった大動脈瘤は突然、破裂するからです。破裂すると体内に大量出血を起こし、激しい痛みとともに血圧低下や意識消失を起こします。およそ半数の方が、病院にたどり着く前に死亡しますし、運よく手術ができたとしても、緊急手術による救命率は40~60%です。また、大動脈瘤の約30%に狭心症・心筋梗塞の合併がありますから、緊急手術の危険率は一層高くなります。それに比べて予定手術での危険率は低く、動脈瘤の部位・持病にもよりますが、胸部で2~6%, 腹部で1~2%であります。まさに早期発見・早期治療による破裂の予防というのが、大動脈瘤治療の目的になります。

治療のタイミング

具体的にどのような状態になったら治療を考えなければいけないのか?それは大動脈瘤の大きさ、拡大具合、形状、原因、および患者様の状態によっても異なりますが、一般的には治療時期は破裂危険率と手術危険率を比較して決めます。

胸部大動脈瘤が破裂・解離・突然死を起こす確率

胸部大動脈瘤の大きさ 破裂・解離・死亡率/年
50~59mm 5~15%/年
60mm以上 15%以上/年

腹部大動脈瘤が破裂する確率

腹部大動脈瘤の大きさ 破裂率/年
40~49mm 0.5~5%
50~59mm 5~15%
60~69mm 15~20%
70mm以上 20~50%

これに加えて、形が悪いもの、急速な拡大(5mm以上/年)をしめすもの、感染や炎症、先天性血管異常などが関与した動脈瘤は破裂・解離しやすく、より早期の治療が望まれます。

われわれは、このような大動脈瘤の性状だけでなく、患者様の状態(全身状態、生活スタイル、生きがい)や、ご家族とのつながりが、治療において一番大切な要素と考えております。だからこそ、患者様とご家族と専門治療を担う大動脈外科医との十分な面談が必要と考えております。

ー 今は治療しなくても心配ないよ、といわれたら ー

大動脈瘤のサイズや全身状態から現時点では手術が必要とならないこともあります。そのような場合も以後の定期検診を忘れてはいけません。大動脈瘤は大きくなればなるほど、拡大スピードが上がります。ゆっくり大きくなったからといって、その後もゆっくり大きくなるわけではありません。ある時、急に拡大することもよく経験します。数年前に、「手術しなくてよいサイズ」と言われた方の大動脈瘤がいつの間にか大きくなって破裂して運ばれてくることも少なくありません。当科では、そのような状態の患者様にも責任を持って観察をさせていただいております。

治療方法

大動脈瘤破裂を予防するには、手術療法しか現在はありません。お薬では、動脈瘤を小さくすることは現在のところ不可能です。われわれは、

  1. 開胸あるいは開腹による人工血管置換術
  2. 開胸あるいは開腹を行わない、カテーテルによる血管内治療(ステントグラフト内挿術)

の2種類の手術療法を行っております。大動脈瘤の部位や形状により方法・術後経過が異なるので、具体的には患者様それぞれに合った説明をさせていただいております。

1. 人工血管置換術(図4)

胸部あるいは腹部切開を行い、大動脈瘤へ到達し、血流を遮断して瘤を切開、正常な血管と人工血管を手縫いで縫合します。大動脈瘤の部位によっては循環・臓器保護のために人工心肺装置、低体温(体温25度)、臓器灌流装置を併用します。場合によっては必要な血管の再建や大動脈弁の交換手術などを合わせて行います。手術危険率は、患者様の全身状態、瘤の部位などにより異なります。重症例や寝たきりの患者様などを含めた当院の診療実績は以下の如くです。

図4

図4

開院(2009.2)~2011.9 までの人工血管置換術 死亡数(死亡率)
胸部大動脈瘤24例(緊急1例) 1例(4%)
緊急:破裂性胸部大動脈瘤 3例 1例(34%)
緊急:急性大動脈解離 22例 4例(18%)
腹部・腸骨大動脈瘤54例(緊急 4例) 0例(0%)
緊急:破裂性腹部・腸骨動脈瘤 12例 0例(0%)

一般的な術後経過は、胸部・腹部とも手術翌日に立ちあがり、2日目に歩行開始、5日目にはシャワー浴を行い、おおむね手術後10日前後で退院となります。状態に応じて入院期間を考慮しておりますが、早期歩行・早期退院を信条にスタッフ一同、尽力させて頂きます。退院後の注意事項は、患者様の持病や術前の生活強度、および入院経過によっても異なりますが、手術を頑張って乗り切り元気になられた皆様には、概ね術前と同様の生活をおくって頂けます。当科では退院時に今後の生活における留意点の説明、心配事への回答、外来での定期検診計画につき患者様とご家族と一緒に時間をかけてお話しています。

2. ステントグラフトによる治療(図5)

ステントグラフト治療とは、動脈瘤を直接切除することなく、動脈瘤内にステントグラフトと呼ばれる針金骨格付人工血管を挿入して破裂を予防する治療法です。8mm程度の細い管(カテーテル)内にステントグラフトを折りたたんで詰め、それを約5cmの皮膚切開で露出した足のつけねの動脈から、血管内を通して動脈瘤部分まで運んでステントグラフトを広げて留置します。大動脈瘤は体の中に残ったままですが、瘤には血圧が直接かからないので破裂の危険がなくなります。胸や腹を切開しないため人工血管置換術に比べ体の負担が少ないのが特徴です。しかしすべての大動脈瘤がステントグラフトに適した形とは限りません。また人工血管置換術の手縫いとは異なり、正常な血管とステントグラフトを圧力で密着させているだけのため、正常な血管に拡張が起これば数カ月~数年後でも、血液の漏れが発生する例も報告されています。場合によってはその血液の漏れにより残存動脈瘤拡大や破裂がおこる可能性があります。そのような好ましくない経過を予防するためには、動脈の形状がステントグラフトに適切な患者様にのみステントグラフトを行うことが望まれます。

図5

図5

大動脈瘤の、治療法の選択には、動脈瘤の形状だけでなく、患者様の合併疾患・考え方・生活様式や活動度を十分に吟味して、公正な判断で適切な治療方法を提供することが必要と考えています。そのため当科では、ステントグラフトも人工血管置換術も十分な経験があり、どちらも施行できる医師を中心に一貫して適応判断、説明、治療、および術後観察を担当させて頂いております

  手術危険率 入院期間 特徴
人工血管置換術 腹部1%程度
胸部4%程度
胸部腹部とも10日前後 手術を乗り越える努力必要。
退院後は年1回のCT検査のみ。
ステントグラフト内挿術 0.5%程度 胸部腹部とも5日前後 再発リスクあり、こまめなCT観察が必要。

急性大動脈解離について

大動脈解離とは、大動脈内膜に生じた小さな亀裂から血液が血管壁内(中膜)に流入し、外層と内層に壁が裂ける(解離する)病気です。高血圧の方に多い(大動脈解離の70%に高血圧が認められます)のですが、時折まったく血圧が正常の方もいらっしゃいます。先天的な大動脈壁の弱さが原因となることもあります。(図6)

図6

図6

症状:

ほとんど(80%)は突然の胸背部痛にて発症しますが、時折、痛みを伴わず呼吸苦や倦怠感のみが症状となることもあります。解離により血流障害が起きると急性心不全(心筋虚血、急性大動脈弁閉鎖不全、心タンポナーデ)、意識障害や半身麻痺(脳血流障害)、下肢痛や腹痛(下肢、腸管血流障害)などが出現し、危機的な状況となります。

経過および頻度:

症状は多彩で、まるで脳梗塞を疑わす症状で脳外科の病院に運ばれ、大動脈解離の診断が遅れ、診断がつかぬまま時間がたってしまうことも少なくありません。適切な治療を行わないと発症24時間以内に約半数が死亡します。循環器疾患による急死例では心筋梗塞についで2番目に多いとされています。

治療に大きく関わるため、分類が大切になります。解離した部位によりStanford A型Stanford B型に分類(図6)されます。大動脈の根元から脳への血管が分岐するまでの「上行大動脈」に解離が及んでいるものがA型、及んでいないものがB型となります。上行大動脈は破裂しやすくまた、心臓周囲の出血や心筋梗塞の危険性がありますので、基本的にA型は緊急手術の対象となります。一般的な手術死亡率は25%程度であり,手術しない場合よりも救命の可能性が高くなります。B型においては血流障害や破裂がない限り、血圧管理および安静確保による経過観察(降圧保存療法)を行います

治療:

手術は大動脈瘤と同様に人工血管置換術を行います。救命のための手術であり、解離した大動脈全部を取り替えるわけではありません。当科では予定手術と同じように患者様の容態に応じて可能な限りの術後早期離床に努めており、良好な結果を得ています。

降圧保存療法は初めの数日間を集中治療室で厳重に血圧および全身の管理を行い、合併症の有無を確認しながら約3~4週間をかけて徐々に運動量を上げて、退院へと導きます。解離した大動脈が急速に拡大したり、血流障害を伴ったりした場合には、緊急手術が必要となることもあり、状態に応じて適切に対応しております。

慢性期経過:

こうして急性期を乗り切った大動脈解離の患者様は、元気に退院することができますが、慢性期において、解離再発(再解離)をおこしたり、ゆっくりと拡大し解離性大動脈瘤になったりすることがあります。これらの可能性が症例によっては高率となるため、専門家による定期検診が必要となります。日常生活に関しての制限は大動脈解離の程度に応じて検討判断しております。

文責:心臓血管外科 加藤貴吉